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Sleep Warm 8 – Tommorrow is Saturday -(最新話)

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Sleep Warm 8 – Tommorrow is Saturday -

姫が湯呑をふたつ運んできた。
「どっち?」
両方の湯呑の匂いを嗅いで確認し、姫が「こっちがおまえの」と片方を目の前に置いてくれた。ついでに隣に自分用の湯呑も置いて、自分までもが隣に滑り込んできた。
こたつの一辺に男ふたりである。
「狭いって。そっち行けよ」
返事も反論もせずに、ただ柔らかく笑うばかりで、そのまま強引に隣に入り込む。
「熱は?」
「だいじょうぶ。出てないよ」
こくり、と一口、あまえこ(*7)を飲む。合わせるかのように姫も自分の湯呑から、一口。
「姫のほうは今晩、仕事はいいのか」
「どれも大体落ち着いたかな。例の舞台は、明日から本番だし」
「明日か明後日、観に行こうと思ってたんだけど」
「体調次第だろ。無理しなくていい。すぐ次のも本番が来るし」
「今、何本抱えてるんだ」
ひとつ、ふたつ、と指を折って「7本かな」と言って、「多いな」とぼやいた。
「ま。小さなものばっかりだけどな」
「いいんじゃない。仕事があるってことは」
「だな」
そう言って、唇を重ねてきた。姫の、あまえこの甘味に濡れた唇が、風邪薬のせいかカサさついた唇に一瞬ぴりっと沁みるが、ゆっくり湿らされると嘘のように楽になった。
「そっち、酒かす入りだろう」
「味、わかる?」
「いや。正直、鼻がもう全然利いてないからそれはわからない」
「キスしたくらいじゃ酔わないだろ」
まあ、たぶん、と答える答えも聞いているのかいないのか。短く、長く、キスを続けてくる。
「こら。姫。狭いって」
何がしたいのかと思えば、ごそごそと上に乗っかってくる。
「大の男が何やってんの、猫みたいに」
腹の上に乗っかって見つめてくる姫を笑う。
「オレはどっちかっていうと犬タイプ」
「うそだ。猫だ。おまえみたいに言うこと聞かないやつは猫に決まってる」
「蓮ちゃんになついている、い・ぬ。絶対」
「ならもうちょっと言うこと聞いたら?」
姫の首筋に手を添え、そのまま肩のラインに沿ってシャツの内側に手を滑らす。
「蓮。おまえ、何笑ってんの? あ。もしかしてオレ、カップ間違えた・・・」
テーブルの湯のみのほうを振り向こうとした姫の顔を捉えて、さっきのお返しをする。
「わざと間違えたとか」
「んなめんどーなこと、なんでわざわざするんだよ?」
さあ、と言いながら、可笑しくなる。なにをあんなに大人気なく怒ったり拗ねたりしてたんだろう。姫のシャツに潜り込ませた指で姫の体温を確認しながら、取り戻すことができたその温もりに安堵する。
「・・・何?」
姫が凝と見つめてくる。ひどく心配そうな顔をして。
「なんか言いたいことあるんじゃないの?」
「どうして」
「泣きそうな顔してる」
するわけないだろう。こんなに嬉しくて笑みがこぼれそうなのに。
「姫のほうがよっぽど」
「オレ? いつ?」
「玄関で。キスしてきて、俺に殴られたとき。泣きべそかいてたぞ」
思い当たるんだろう。照れくさそうに笑って、肩口に顔を埋めてきた。
「嫌われたー、と思ったもんな、あのとき。すっげー、後悔した」
「こたつ買ったことを?」
「ばか。無理矢理キスしたこと」
この際、こたつはもういいの、と言って鎖骨に強くキスを残す。たぶん、痕がついた。
「こら、蓮。脱がすな」
「肩触ってるだけ」
姫の膚の感触が心地いい。温もりと手触りと、少しずつ高まってくる気分と。
「脱がすなってば」
「うるさいな、だまれ、猫の分際で」
肩から脇を通ってシャツの中で背中に回した手で肩甲骨を弄る。
「言うこと聞かないから」
「え?」
「姫が俺の言うことを聞かないでこんなもん買った上に、それを自分でちゃんと白状しないから、俺がちゃんと怒れなくなったんだ」
鼻先にある姫の顔は優しい。姫は、俺が姫のやることなら受け入れるだろうからこたつを買った、と言ったけど、たぶん、許すのはいつでも姫のほうだ。
「怒られるようなことするときは・・・」
「するときは?」
「俺がいるときにすること」
「それから?」
「ちゃんと姫が怒られにくること」
言葉を発するのに唇を動かすたびに、触れそうなくらいすぐそばで会話を交わす。
「返事は?」
答えが声で返ってくるわけはなく、唇が重なる。
「それから」
「まだあるのか?」
さすがに姫が呆れた声を出す。
「さっきから調子良く名前で呼んでるけど、俺、今日は譲らないよ」
姫が凝っと見つめてくる。
こちらも負けじと見返すと、姫の目元がふと緩んだ。
「2週間もほったらかしておいて、それかよ」
思い切りディープに唇を合わせてくる。当然そうなると。
「姫、息・・・できない・・・馬鹿・・・」
鼻が詰まっているのをいいことに、自分の息が続く限り離れようとしない。
しばらくもがいたが、離れようとしないので、こちらも反撃に出て、姫の鼻をつまむ。
「降参」
姫のほうから離れ、互いに大きく息を継ぐ。
「名前を先に呼んだほうが挿れるっての決めたの、おまえだぞ」
耳の下から首筋を伝って息を整えながら、反論しつつ、唇を這わせる。
「でも、今日は譲らない」
言うこと聞くんだろ、と言ったら、姫はただ、笑う。
「昨日さ」
「ん?」
「昨日、小屋で俺が怪我したとき」
「うん」
「臀を怪我したんじゃないか、っておまえが『後ろ向けるか』って言ったじゃん」
「そうだったっけ」
「最初ん時、おまえがオレに言った台詞と同じだったぞ」
初めてこうして抱き合ったときに。
そう言われればそんなことを言ったかもしれない。
互いが男だということに戸惑いと躊躇いばかりが立ちはだかって、行きつ戻りつしながら、距離を少しずつ詰めていった。結果、距離が縮まるのに、自分たちの意識が追いつかなかった。感情が向かい合っていこうとしているのに、理性が常識という壁に寄りかかろうとして邪魔をする。セックスのフォーマットが男女で刷り込まれていると、自分たちはどうすればいいのかを考えざるを得ない。紛れもなく、そういう段になると男は男を主張してしまう。意地を張って、感情を押し殺して、背中を向けて。
今回も、同じか。
くす、と笑いが零れた。
「なんだ?」
「なんでもない」
姫の唇が喉に当てられる。そっと触れられれば触れられるほど、不思議と身体に起こる刺激が大きくなる。
「いたっ」
思わず立てた膝でコタツの天板を思い切り突き上げる。
「あ。ばか・・・」
湯飲みが転がり、天板の上にあまえこの白い液体が広がる。
あーあ、と、ふたり、声が揃った。

@@@

「依嶋。寝るんならベッドへ行って寝ろよ。風邪、悪くするぞ」
うん、と生返事をしたものの、意識が眠りに沈んでいく。
テーブルの上の片づけを姫がしているほんのちょっとの合間に、すっかり風邪薬が効いたのか、さっきまでふざけていたのが嘘のように眠くなる。
姫に軽く肩を揺さぶられていたが、それもすぐに止んだ。
もそもそと横で動く気配がし、こたつとは違う温もりが左脇に入ってくる。
だから、こたつはダメだって言ったんだ。
そんなことを言ったような気がするが、姫からは「なに?」と問われたから、眠くてうまく言えてなかったかもしれない。
こたつから出られなくなるから、こたつなんて買うなって言ったんだ。その証拠に、こうしてついつい寝てしまうし。
姫の手が、ぽんぽん、と胸を叩いて、そのままその手が鎖骨に当てられるのを感じる。
――ま、今日は大人しくふたりとも寝るってことで。
姫の声が遠くで優しかった。

< 了 >

————————————————

(*7)甘酒。

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