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Tie Little Fingers

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Tie Little Fingers (前編)

それはまだ お互いがお互いに遠慮がちであったころ――
――何に、かというと、それはつまり。

ここのところ、依嶋の機嫌が悪いなあ、と思う。
もしかして、オレがプータローだからか?
アメリカで暫くイアンの仕事を手伝い、日本へ戻ってきて1ヶ月。渡米前だってべつに売れていた演出家ってわけでもないから、暫く留守にして消息無ければ、当然日本へ戻ってきたとて仕事はすぐには転がり込まない。それどころか、唐突にアメリカへ行ったもんだから、「当てにならない演出家」の烙印を押されてるという噂もちらほらあるらしい。
ま。行っちまったもんは仕方ないし、帰ってきちまったんだし。地道に営業かけて仕事は探すしかないか。
と、いうことについては、
「なんとかなるだろう。実績はあるわけだし、コネだって、それなりに持ってはいるわけだから、あとは運じゃないの」
と、理解はしてくれている。
じゃあ、一体、何が気に入らないんだ?
とは、なかなか聞けないでいる。
「姫、今晩、俺、食事要らないから」
「あ。うん。事務所の人と?」
「そう。1月から入った人の歓迎会兼新年会。うちのグループだから、2次会まである・・・かも」
「ごくろーさん。どこ? 新宿?」
「いや、神楽坂」
「渋いな」
不思議と朝は機嫌が悪くないんだ、これが。
「じゃ、悪いけど、あと、よろしく」
蓮が荷物を引っさげて玄関へ向かう。
「あ、わすれもの」
急ブレーキをかけて、オレの前に数歩、戻ってきて軽くキスをして、じゃあな、と出かけていく。
これはこれで、新婚家庭のようで、――悪い気はしない。が、だ。
朝食の食器をシンクへ下げながら、考える。
毎晩、機嫌が悪いというわけでもない。帰宅したてにしても、機嫌悪く帰宅してくるようなことはさほどないように思える。
思えるんだが、なぜかここのところ、「途中」から機嫌が悪くなる。ように思う。
寝室に行って、どちらかのベッドで一緒に寝む夜の話だ。
「昨夜なんて、途中で止めちまったんだぞ」
誰に言うでもなく、洗濯物に当たりちらし、洗濯機に洗濯物を動作も荒く放り込む。
「欲求不満とまでは言わないけど、さ」
いや、そりゃ、欲求不満にもなるだろう。それなりに盛り上がって、途中で止められてしまうって、オレ、なんか悪いことしたか?って思うだろうよ。
「あ・・・」
洗剤をパカパカ入れすぎて、慌てて洗濯物の上に小山になっている洗剤を、小さなスコップで掬って戻す。
オレって下手くそなのか?と、悩みは下世話なラインにまで突入する。
誰かに相談でもしようものなら、【いつの間に彼女作ったんだ?】→【彼女、どんな子】と問われる図式になることはすぐに思いつく。
「誰かに言えるもんでもなし」
一応、ため息が出るには出るが、しかし、嫌な思いばかりのため息でもない。何せ、ようやく、互いに互いの思いが受け入れられた結果の悩みなのだから。
「なのに、なーんで、もはや倦怠期みたいに、途中で終了、なんてことになるんだよっ?」
と、結局、悩みはそこへ戻ってきてしまう。
洗濯機のスイッチを入れてキッチンへ戻ってきたタイミングで、携帯が鳴り始めた。
太市からだった。

@@@

「―っす」
駅前にあるスタバで待っていた太市が、オープン席で手を上げる。
「この寒いのになんで外なんだ?」
「寒いから、外なんですよ」
そう言って、店内を指差した。
「あ。いっぱいなのか」
「そゆことです」
「それで? イイ話って? 仕事、くれるのか?」
「そうです」
即座に言われて、少し驚く。今のオレにとっては、思わず耳と尻尾がピンと立つような気持ちだ。
「本当に、仕事の話?」
こくん、と太市が首を縦に振る。
「予算、少ないっすよ」
「うん」
「でも、クレジットはつきます」
「ただし」
「ん?」
「英語名で出してくれって」
「HAL・Himeji? なんでだ?」
「外国の映画祭に出すからだそうです」
「ちょっと待て。オレはフィルムはやらないぞ」
「違うんですよ」
舞台の芝居であることは間違いない。ただし、その芝居を作る過程を映画にしたいということ込みで、という話らしい。
「ドキュメンタリー、か」
仕事ならなんでもやってやろう、と思う反面、どうしても勘が働いて、その仕事はおまえに似合わないぞ、と自分に言う自分がいるときがある。
「ちょっと、おかわり買ってきます。先輩は?」
「同じものでいい」
腕を組んで考え込んでしまう。
ドキュメンタリーだ? 芝居を作る過程の。それは、芝居自体が超ヒットしたものであるなら、撮っておいて損はないものだろうと思う。しかし、芝居自体は低予算、と最初に太市は断ってきている。次に、芝居を作る人間の中に、何か注目されるべき人間がいる場合だ。
「芝居のキャスティングは聞いているか?」
紙コップをふたつ持って戻ってきた太市を急に振り返り、危うくカップを取り落とすほど驚かしてしまう。
「わ。びっくりした」
「・・・すまん」
紙コップをひとつ、こちらに寄越し、太市が自分のコーヒーを飲みもせず、話し始めた。
「実はですね」
聞いていくうちに、顔が渋くなっていくのが自分でもわかる。話している太市も、だんだん話しにくくなるようで、表情が曇ってくる。
話が終わると、ふたりして、同じトーンで「うーん」と唸る羽目になった。

@@@

昼は太市と一緒に食べ、夜は一人なので簡単に済まそうと、明日の朝用のスープを多めに作り、そのスープで冷凍の残りご飯をリゾット風にして食べる。
「さて」
時計は夜10時を回ったところ。依嶋は2次会まであるかも、と言っていたので、まだ帰らないだろう。仕事がないと、暇が身に沁みる。
「田代先輩んとこでまた雇ってもらおうかな」
学生時代から卒業してしばらくは、大学の先輩である田代のバーでアルバイトをさせてもらって糊口をしのいでいた。意外と肌にあったのは、水商売というよりは、飲食業があっていたのだろう、と思う。シェーカーを振って、バーテンダーのコンテストで賞まで獲ったこともあった。
でも、絶対、今なら、立ち仕事は腰に来るだろうしな。
そもそも、ハイそうですか、と雇ってもらえるとは限らない。
そこへ、がちゃり、と玄関の鍵が開く音が聞こえた。
「おかえりー」
「うん」
ソファに身を投げ出すように座り込んだ依嶋に、キスをする。
「あれ?」
かすかにアルコールの香りがする。
確認のため、もう一度、と勝手な言い訳を胸の裡で呟いて、再度キスをしてみる。
「依嶋、ビール、飲んだのか?」
「さすが。当たり」
悪いけど、水、くれる?と続く。
冷蔵庫に冷やしたペットボトルから、水を注いでグラスを渡す。
「飲めないことは事務所のみんなも知ってるだろうに」
「・・・いいんだ。飲まされたってわけじゃない」
ってことは自分で飲んだってことか? 依嶋が?
しかも。
「自分から飲んだわりに愉しそうじゃないな」
依嶋は笑い上戸だ。ほんの少しでも酒が入ると、大抵は陽気になって大笑いする。
もっとも、そういった酒癖も、精神的な状況によっては、出ない場合も勿論ある。らしい。
少なくともオレは、笑い上戸にならなかった酒の入った依嶋を見たことがないので、あくまでそれは、そういうこともある、という知識の上での話でしかない。
「うん・・・。愉しくなれなかったな」
前髪を掻きあげて、ため息をついた。
「姫」
ソファの自分の隣をぽんぽんと叩いて、座れ、と言う。
「膝、貸せ」
オレが横に座ると、すぐさま、ソファに寝転んだ。人の膝の上に頭をちょこんと乗せて。
「・・・なんか、あったか?」
「うん? うん。いや。別に」
「シャツ、脱げよ。ズボンも。皺になるぞ」
「いいよ。クリーニングに出すんだし」
依嶋の髪を触る。前髪、横、括られたしっぽの髪、うなじ。そこまで行ったとき、依嶋に指を捕まえられる。
「水、欲しい」
ペットボトルを手に取って、グラスに水を注いだが、依嶋が目を閉じているもんだから、つい、口に含んで口移しをしてしまう。
こくりと喉を通った音が聞こえて、依嶋の目が開く。
「眠そうだな」
「まあ、わりと」
「気分は悪くない?」
「それは、だいじょうぶ」
顔を覗き込むように頭を下げると、依嶋が首っ玉にかじりつくように抱きついてきた。
「依嶋?」
不思議な感じがする。酒の匂いがする依嶋なんて、依嶋じゃないみたいで。
「今晩さ」
「ん?」
譲ってやる、って言ったら?
アルコールに掠れた声が、思いのほか甘い。耳のすぐ後ろで、そんな言葉を囁かれた。
思わず依嶋の顔を見るが、依嶋は目を瞑ったままだ。眠っているのか、眠った振りをしてオレの顔を見ないつもりなのか。
キスをしながら、依嶋の頭をゆっくりと膝に下ろす。顎を押さえていた親指を顎から喉へゆっくりと滑らせると、依嶋の肩が一瞬震えた。
目を開けた依嶋に、「この体勢は腰がキツイ」と笑ってみせて、ソファから降りて床に座る。
依嶋の額の前髪を指で梳いて遊びながら、瞼にキスをすると、長い睫毛が唇に触れるのがくすぐったい。オレの指が鎖骨を探す一方で、依嶋の手がオレの項を抱きに来た。
喉に唇を押し当てると、依嶋の、オレの項に置かれた手に力が入る。
シャツの前ボタンを外そうか外すまいか迷いながら、依嶋のシャツの胸の上を探っているうちに、依嶋の胸の上下する動きが規則正しくなってきた。項に置かれた手からも力が抜けていた。
唇を離し、依嶋の目が開かないことを確認して、額に軽くキスをした。
途中で寝てしまわれるオレって、もしかして、キスも下手???
「自信無くなる・・・」
いや、別に、キスの技術に自信の有る無しを意識したこともなかったが。
頭の後ろに依嶋の気持ち良さそうな寝息を暫くの間聞いて、ため息とともに寝顔を振り返って立ち上がった。
「風呂でも沸かしとくか」
カーテンをちらりと捲って、外の天気を確認する。大荒れだ。タワーマンションから見える上空を舞う雪は冷たい礫のまま落ちて、明日には地面に積もるだろう。
湯が張れたことを報せる電子音が鳴ってもまだ、起きそうにない依嶋に毛布をかけて、風呂へ入った。風呂から上がり、ソファの上で眠っている依嶋の横に腰を下ろして、寝顔を覗き込む。
「まさか、オレが下手糞だってんで機嫌が悪かったってのか?」
話しかけても、一向に起きる気配はない。コップ半分、いや、おそらく実際はコップ3分の1のほうだろう、たったそれだけですっかり酔ってしまうようでは、明日が土曜日で良かった。
「でも、こいつ、忙しけりゃ、土曜日でも日曜日でも事務所に出て行くんだよな」
ま。明日は積雪の朝で、東京なら間違いなく交通網はマヒしてるか。
「さて、と」
自分と同じ身長、同じ体重(のはず)を相手にするのは初めてだ。
身体の下に両手を差し入れ、肚と腰に力を入れて立ち上がる。
「南無三」
数年前にやったぎっくり腰が出ませんよーに。
意外に苦も無く持ち上がる。
「お姫様抱っこなんて、妹の眞澄を抱き上げたことがあるっきりだぞ」
もしも誰かがこんな格好を見たら、噴飯ものだろう。男が男を、しかも、同じような体格の、どちらかというとガタイがいいほうに入るもの同志が、抱き上げて抱き上げられているのだ。
「こっちは嬉しかったりするんだけどな」
依嶋を女役だと思っているわけではない。ただ、好きなのだ。その思いを、もっとも近い世間的分類で言えば、「恋愛」というものに近い、というだけで。
「こいつ、起きてたら絶対にさせてくんないからな、こんなこと」
何故か、ざまーみろ、という笑いと、それから、愛しさからくる笑みとで頬が緩む。
ソファのあるリビングからベッドまで2間程度の距離。「荷物」を抱いているから、通常より多少狭い歩幅で歩いて、それでも10歩も歩かないうちに着いてしまう距離。
目を覚ますなよ、落っことすぞ。
そう念じつつ、ベッドまで連れていく。
セミダブルのベッドに依嶋を下ろし、肩をつつく。
「おい。服。くしゃくしゃになるぞ。脱がすか?」
聞こえてはいるようで、寝返りを打ってむにゃむにゃと寝言まがいに返事をされた。
「いい。脱ぐと寒い」
「脱がしたら脱がしっぱなしにはしないけどさ」
まあいいか。上下ともクリーニング行き決定。
依嶋に毛布を掛けてやる。暫く考えたが、もう一枚、自分のベッドから毛布を持ってきて、依嶋のベッドに乗って寝転ぶと、毛布を自分の身体に巻きつけた。
親が子どもの添い寝をするように、肘を枕にして顔を眺めながらいると、やがて眠気が降りてくる。眼鏡を外してベッドサイドに置き、欠伸をひとつしたらあっけなく意識が落ちた。

@@@

生温かいふにゃんとした感触を唇に感じて起きた。聞こえてきた第一声は
「おはよ。眠り姫」
依嶋のベッドで、依嶋はベッド脇に立っていて、俺がベッドのど真ん中で毛布に包まって寝ている状態。
「・・・あー。依嶋、起きたんだ?」
「起きてるよ。見ればわかるだろう」
「人をお姫さま呼ばわりするな」
目を擦りながら起き上がる。キスで起こされたことは嬉しいから、照れくさい顔をうつむいて隠す。
「姫には違いあるまい。人のベッドを占領しやがって」
依嶋がオレの足をパン、と叩いて場所を空けさせ、座った。
「俺、昨日、何時くらいに帰ってきたっけ」
「覚えてないんだ? 10時・・・ちょい過ぎかな。風呂、湯、張ったままにしてる。入ってくれば?」
うん、と篭った返事をするくせに、依嶋のほうから毛布に潜り込んできた。
「寒い」
「エアコン入れてきてやろうか」
「さっき入れた。温まるまでここにいる」
朝っぱらから横並びにくっついて寝転んでるのって、身体よりも気持ちがくすぐったい。
「なんで珍しくビールなんて飲んだの?」
「よくわかったな。ビール飲んだって」
「昨日もお褒めに預かった」
「そうだっけ」
上半身はただ並んで寝転んでいるだけだが、足が悪戯を仕掛けてくる。絡めてみたり、蹴飛ばしてみたり。
「依嶋、昨日さ」
「うん?」
「帰ってきて言ったこと、覚えてる?」
「・・・・・・」
返事のないまま足だけがちょっかいを出してきていたが、急にぱっと毛布から身体ごと出て、風呂入ってくる、と部屋を出ていった。
覚えているからあの態度なのか、覚えていなくて何を言ったか不安があるからあの態度なのか。
「珈琲でも入れるか」
ベッドから出た。上半身半袖でも寒くは無い。ここはもともとが、壁で区切ってはいないだだっ広い1LDKでエアコンの効果を考えると非常に不経済な部屋である。それを承知で、面倒くささ半分、開放感が気に入っているの半分で、依嶋は特に壁を作ることなくそのまま使っている。とりあえずは生活に即して家具を配置することで、それなりに部屋を区別している。リビングスペースには大窓があるので、強力なエアコンを取り付けてあるし、寝室は暖かくして寝ることもほとんどないので、概ねリビングスペース用のエアコンだけでこと足りる。
今も寝室側のエアコンはつけていないが、依嶋が点けたリビングかのエアコンで暖まった暖気が寝室に流れ込んでくるほどには、リビングは暖まっているようだ。寝室のカーテンは開けずにリビングへ行く。リビングのカーテンを少しだけ開けてみると空は真っ白で、ガラス窓から寒気が伝わってくる。迷ったが、ほんの50センチほどだけカーテンを開けておいて、キッチンへと向かう。
依嶋好みのブレンドの挽き豆で、ペーパーフィルターでゆっくり落とす。カップを温めてテーブルに置いたら、依嶋がリビングに戻ってきた。
「早。ちゃんと温もったのか?」
「温もったよ」
バスタブで本まで読んで粘るオレとは違い、依嶋はカラス族だ。
さっきの起き抜けよりは幾分すっきりした顔はしてはいる。エアコンを効かせているからか、半そで・短パンで出てきて、洗った髪を拭うのもおざなりにごろんとソファに寝そべった。
「気持ち悪。たったあれだけで」
昨日のビールのことを言っているのだろう。
「どのくらい飲んだんだ?」
「コップ3分の1、いや、2分の1くらいかな」
「依嶋にしちゃ、上出来じゃん」
うるさい、と、髪と一緒に顔の上半分タオルを被って、小さな声でささやかに反抗してくる。
「いつの間に飲めるようになった?」
「この間、アメリカにいる間に。イアンにトレーニングされた」
トレーニング、と鸚鵡返しに言うと、タオルからちらと片目を見せて睨まれた。
「何でまた、トレーニングなんだ?」
片手でタオルを被りなおして、タオルの下からくぐもった声が、随分と経ってから答えた。
「酒を飲んで酔いたい時もある、って俺が言ったら、一口でも飲めると気分も違うだろう、って。グラスを空ける必要はない、酒が入ったグラスに口を付けられるっていうことが肝心だ、とか言ってたな」
今日は一口、今晩は二口、と、時間を見つけてはちびちびと飲むのに、イアンはつきあってくれた、と言った。
「あいつ、口は悪いけど面倒見は悪くないからな。渡米したオレに、演出の仕事をいろいろ回してくれたのもあいつだったし」
それで? 昨夜、酒を飲みたくなったわけは? ――とは、聞きたいが聞けない。
マグカップを持ったまま、窓辺の、僅かにカーテンを開けてある場所へ寄った。
昨夜からの雪は、飽きもせずまだ狂うように舞っている。
カーテン越しの窓に背を預け、暫く、かすかに窓ガラスを震わして聞こえる風の音を聞きながら雪の舞う中空の景色を眺めていた。
と、むく、とソファの上で、依嶋が起き上がった。
「俺の珈琲は」
「大きいテーブルの上」
ダイニングテーブルのほうを指し示す。
ソファの背越しにマグカップを取った依嶋は、タオルを頭にかけたまま、窓際へと寄ってきた。ぺたんと床に座り込み、窓の外を眺める。
「結構降ってるな」
「たぶん、東京の軟弱な交通機関は大混乱してると思うぞ。今日は篭城が正解」
「だな」
オレも依嶋の隣に、床に腰を下ろした。
マグカップ片手に、同じくマグカップを片手に持った依嶋の頭を引き寄せる。自分のマグカップを床に置き、ついでに依嶋のマグカップも取り上げた。
「返せよ。珈琲飲みたい」
「我慢しろ」
「冷めちまうだろう」
「入れ直してやるから。――止まんなくなっちまった」
なんで、依嶋とキスすると、こうして止まらなくなるんだろ。とにかくたくさん、できるだけ長く、ずっとこうしていたい、と思う。そこから先は有っても無くても構わない、いや、勿論、有っていいんだが。
「姫。背中、冷たい」
気がつけば、窓ガラスに依嶋の背を押し付けてキスをせがんでいる自分がいた。
「じゃあ、こっち」
床に寝かしてキスを続ける。
「床かよ。うちにはソファもベッドもあるんだぞ」
「とりあえず、キスだけ」
「キスだけ?」
本当に?と可愛げなく念押ししてくる依嶋を宥めるように、またキスをする。
自分でも呆れるほどに愛しい。女でもなく、自分よりも年下でもなく、華奢だったり小さいわけでもなく、か弱いわけでもない男に、なんでここまで惚れたかというのは、他人に問われずとも、最大の自問でもある。
髪に触れ、頬に触れ、耳に触れ、時折唇にキスをすると依嶋も応じる。依嶋の手がオレの髪をくしゃりと握り、シャツの裾からわき腹に触れてくると、こちらもますます止められなくなる。床の暖房がまた、心地いい。やがて、首筋から肩に、いつもの鎖骨に、と唇を異動させ、Tシャツの襟ぐりを引いて胸にキスしようとしたところで、膝でわき腹を蹴られた。
「あいたっ」
「キスだけなんだろ」
「キスしかしてないだろ?」
「服脱がしたら、それだけじゃ済まないくせに」
Tシャツの肩を直し、床から起き上がる。マグカップを拾い上げて「ほら、冷めちまった」と文句を言いながらソファのほうへ戻ろうとした。
「約束だからな。珈琲、入れ直してくれよ」
文句たらたらでも冷めた珈琲を飲みながら要求する依嶋に、憎たらしいという気持ち1割。
舌打ちしながら、言われるままに新しいペーパーフィルターをセットして2杯目の珈琲を入れる準備を始める。
「今度は姫のほうの豆でいいぞ」
「そりゃ、どーも」
ありがたく、自分好みの挽き豆を入れて、細口のケトルからゆっくりと湯を注ぐ。
自分のマグカップとオレのカップを取り上げ、依嶋が軽く洗って持ってきた。
「湯、入れて」
「お」
カップの温めるための湯を注ぐと、依嶋が軽く耳のそばにキスをしてくれる。
こーゆーことされると、再開してもいいのかなーと思うじゃないか、ふつー。
依嶋のしっぽ髪を軽く引っ張って唇に「お返事」しようとすると、あっさりと、「キスもいいけど、カフェイン欲しいんだけど」と流され、苦虫を噛み潰した顔をして依嶋を睨む。
依嶋は機嫌のいい笑顔で、マグカップを手に取りシンクへ湯を捨てに行った。
こいつ、もしかして、本当はめちゃくちゃ手馴れているんじゃないだろーな。
「そういや、今日は事務所行かなくていいの?」
「今日と明日は、ビルのメンテナンスが入るから、テナントは立ち入り禁止。以って帰ってくるほど緊急の仕事もなし」
「ゆっくり休めるな」
「うん」
はい、と温まったマグカップを渡される。
「少し薄めに入れた」
「さんきゅ」
フィルターを始末してサーバーを洗い、戻ってくると、律儀にまだ珈琲に口を付けずに待っている。たぶん、好きなのはこういうところ、だ。
正攻法。真正面から抱きしめる。
「おい。姫?」
背中を抱く腕にきゅーっと力を込める。
「依嶋。今日、譲れ」
依嶋の反応を、暫く待つ。
言ったはいいが、あまりの長い沈黙に、急速に口の中が渇いてきて、心臓が跳ね始めた。
依嶋の手が、オレのシャツの背を摘む。肩に顎を乗せた顔はどんな顔をしているのか。
首を少し捻ると、自分の顔のすぐ横に依嶋の括った髪がある。口にくわえ、2,3度引っ張ってみせる。それに促されたかのように、漸く、依嶋が返事をした。
「――いいけど・・・夜、には気が変わる、かも」
「じゃ、夜まで待たない」

@@@

雪がますますひどくなっているのかもしれない。リビングに入れっぱなしにしているエアコンはガンガン動いているようだが、ドアも壁もなくただ、寝室としてベッドのあるほうは相変わらずエアコンを入れていないせいか、段々と室温が落ちていく気がする。
その分、毛布の中で二人絡まっているのが心地いい。直に触れる毛布の肌触りと、シーツの滑りと、互いの肌の肌合いと、温もりのある吐息と。
喉を唇でなぞっていると、依嶋が、絡めていた足を解いて、ぽん、とオレの足を蹴飛ばしてくる。
「痕残すなよ」
「わーかってるって」
そう言うくせして、依嶋がオレの肩に強く徴をつける。
「あ、ばか。Tシャツになったら見えるところに」
「冬なんだから、ずっとタートル着てれば」
無茶を言う。
それならば、と服を脱がない限り見えない場所をたどる。胸より下から、薄い腹、わき腹を潜り抜けて、背中。肩甲骨を唇で食むと、「腹減ってる?」と茶化された。
「食っちまいたい、とまでは言わないけどね」
でも十分、愛しい。口には出さないが、抱きしめる腕の温度でそれが伝わるだろうか。
腕の中でクスクスと依嶋が笑うと、その振動で訳もなく嬉しくなる。
「姫、何笑ってんの」
「べつに」
背中にと胸を、より密にくっつける。
じゃれあいと高ぶりを交互に感じながら、ゆっくりと互いの距離を縮めていく。体を密着させていても、わずか膚2枚の距離がもどかしく思えるときがある。服を剥いで、抱き合って、それでも満足ができなくて。
「なに?」
あまりにも小さく呟いたせいで、依嶋に訊き返された。
「気、変わらないか、って訊いたの」
背中から覗き込んだ依嶋の横顔が、意外そうに片目を開ける。
小さく口を開いて、だからおまえは、の後の言葉が聞き取れなかったが、依嶋のほうから身体の向きを変えて口づけてきたのに、先を促された。
ゆっくりと、ゆっくりと依嶋の身体を解していく。時折、反射的に抵抗されると、少し前に戻って何度でも宥め直す。どうしても身体に緊張が走って先へ進めないでいるときには、
「依嶋。オレの名前、呼んでみな」
「・・・姫?」
「違う。下の名前」
「悠日{はるひ}・・・」
少しだけ、依嶋の身体の緊張が解ける。
「もういっぺん」
息を吐くにはちょうどいい子音の並びの名前だから。
そう言うと、小さく笑って、腕の中の身体の力が抜けていい具合に抱き心地が柔らかくなる。
「嫌なら、もう先へ進まないで止めるけど」
最後にそう訊いてみる。
キスなら止まらなくなるのに、こうして先へ進めば進むほど、自制が働く。不思議なもんだ。
依嶋からは、返事もないまま、指にキスをされた。
互いの肌の境界が融けてしまうような高みが漸く来る。一瞬のことなのに、そこまで辿り着く躊躇いや戸惑いのほうがもっと短かったことのように思える。
――そのくらい、その一瞬の後のこの幸福が大きい、ってわけか。
隣で眠っているんだか起きているんだかわからないけど、目を瞑ったまま疲れに身を委ねているふうの依嶋の顔を凝と見る。窓際のカーテンをそっと捲ると、重い雪雲の空に降る雪は、小さくまばらに舞うほどになっていた。
「地面に着くまでに、融ける雪になったな」
雪国育ちの依嶋が、ぽつりと言った。
「起きてたんだ?」
「うん」
依嶋の手がこちらに伸びてきて、耳を擽る。
せがまれたような気がして、覆いかぶさってキスをすると、依嶋の手が肩を抱きに来た。
「あ」
依嶋が、ごめん、と言う。
ふと見れば、右腕の肩近くが赤くなっていた。先刻、蓮に掴まれたところだ。
「握力強えー」
「そうでもないと思うけど」
悪かったな、と腕に口付けられた。そのまま肩を伝って耳の下へと依嶋の吐息がかかる。依嶋の身体に重なって、頬にキスしながら髪を探る。
「あ? 髪ゴム取れちゃった」
「ん。別にいいよ」
しばらく髪を弄びながら、毛布の外に出ている冷たい肩を撫ぜた指で、毛布の中で触れ合っている脚の温かさを確認する。
「蓮」
微かに蓮の眉根が寄せられて、オレの肩に置かれた蓮の指に力が籠る。僅かに小さく寄せられたかのような肩に口を付けると、安心したように緊張が解けた。
「名前で呼ぶと、やっぱり緊張する?」
「・・・緊張、じゃない」
眩しそうに目を伏せて、瞼にオレのキスを受ける。
「ぞくっとするくらい、身体の中が熱くなる。自分でも、ちょっとおかしいんじゃないかと思うくらい。・・・だから、外では呼ばれたくないんだ、おまえには」
そう言って、少し逸らして目を開ける。
じゃ、家の中ならいいんだ、と言って「蓮ちゃん」と呼んだら殴られた。
大げさに「あいたたた」と言って後頭部をさすっていると、ベッドの上で体育座りになって顔を伏せて笑っていた依嶋が、笑いを止めて、ぽつりと言った。
「なんか、悔しい」
あ?と間抜けた声が出てしまう。余りにも唐突だったからだ。気を取り直して、先を促した。
「何が?」
「姫のほうが、優しかった」
声はちゃんと聞こえたし、言葉そのものは理解をした。つもりだ。
だが、話の脈絡が繋がらない。クエスチョンマークが頭の上に浮かぶかと思ったくらい、依嶋の言ったことが理解できず、なんの反応もしようがなかった。
よほど長いことオレの反応がなかったのだろう。依嶋がちらりとこちらを覗く。
「えーと」
わけわからん、とストレートに言った。
「NYで初めておまえとしたときの俺よりも、今のおまえのほうがずっと優しかったから、悔しい、って言ってんの」
わかりやすく、と思ってか、センテンスを区切りながら言う。
わかる。言っている文章の意味は理解できるぞ。大丈夫。オレの頭は壊れていない。
だが、やはり、依嶋が意図していることが理解できない。さて、――困った。
「俺、あのとき、姫をNYに置いたまま自分だけ帰るのが不安で。ひとりで日本へ戻ったら、おまえがもう日本に帰ってこないかもって思ったら、あのまま何も話さないまま帰るのが急に怖くなって。それで、あのとき、おまえと」
「話、ね」
思わずくすっと笑うと、もう一度殴られた。
「もういい」
何を言いたいかわからなくなった、と顔を腕に隠して拗ねた背を、名前を呼んで、後ろから覆うように抱きかかえる。
「依嶋」
目の前の頑固者は、一向に顔を上げようとしない。
なんでこいつ、こうもひねくれて可愛いかな。口に出して言ったら、またぶん殴られるだろうから言わない(言えない)けど。負けず嫌いにも困ったもんだ。
こうなると腕っぷしが強いほうが有利ってことで。
だるまさん状態の依嶋を抱きかかえたまんま、横向きに寝転がす。
「蓮。れ・ん。れーんちゃん」
「うるさい。安売りじゃあるまいし。ぽんぽん呼ぶな」
頑なに腕を顔の前で組んだまま横になっている依嶋の腕を、組んだまま上げさせる。雪雲空とはいえ、昼間なりの明かりがわずかにさっき捲ったカーテンの隙間から入る室内は、赤くなった拗ねた横顔が見て取れる程度には薄明るい。
「お互い男同士で優しいも何もあるもんかよ」
「比較の問題だ。俺と、おまえと」
そっぽ向いている顔にキスするため、依嶋の体を乗り越える。
「でもさ、オレにとって、依嶋は十分優しかったよ」
それじゃあ、だめか、と言うと、依嶋がやっとこちらを向いた。
「あのとき、自分の気持ちもちゃんとおまえに言えないでぐずぐずしていたオレに、上手に答えを言わせてくれたのはおまえだ」
「答え?」
「そう」
依嶋の背中に凭れるようにして胡坐をかく。肌寒い部屋で、互いの背中の一部だけが触れ合うのが、余計に温かく感じる。
「『東京へ戻ったら』って、オレ、言ったろ?」
ちゃんと東京へ戻るから、っていう約束のつもりだった。
だが、その言葉を言った途端、明らかに依嶋の機嫌が悪くなった。毛布を引っ被って少し伸ばしかけていた体をもう一度丸めてしまう。
「・・・覚えてる。覚えてたから」
それきり切れた言葉の先を、促せる雰囲気でもなさそうなのは、目の前のサナギを見てればさすがにわかる。
「昨夜、俺、譲る、って言ったのに、なんで昨夜じゃなかったんだよ」
半分毛布でくぐもった声でぽつりと言われた。だがそれきり続きは何も言わない。
「昨日は、おまえ、珍しく酔ってたし」
「潰れるほど酔ってなかった」
「でも、酔ってるときの言葉だし」
「ちゃんと正気で言った」
依怙地なやつ、とため息が出る。微笑ましいけど。
「・・・酒飲んで、気分もそんなに良くなさそうだったし。それに、わかんないだろ。飲み慣れない酒飲んできて言った言葉、本気にしていいかどうかなんて」
「言うために飲んだんだから、いいに決まってるだろ!」
伸ばそうとした手を払われた。
薄明かりの部屋で見て取れる表情にも限りがあるが、怒っているといえば怒っているのだが、怒っているくせに泣きそうな、絶対泣くまいと意地を張っているような。
オレの手を払ったまま、行き場を無くした依嶋の手頚を掴んだ。
「頼むからさ、そういう表情{かお}は家ん中だけにしてくれよ。でないとオレ、めちゃ困るから、さ」
「なんで困るんだよ」
「そりゃ・・・なんて言うか・・・。そんな顔されたら」
抱きしめたくなるって言ったら殴られそうだし、キスしたくなるなんて言おうものならものすごく怒りそうだし。
言いあぐねているうちに、依嶋の手頚を握る手から力が抜けていったところ、手を振り払われる。
「1ヶ月と2日は待とうと思ったんだ」
依嶋が起き上がって言う。
「1ヶ月、と、2日・・・って、その半端な日数は、なんだ?」
「姫が帰ってくるって約束して、アメリカで別れたときから1ヵ月と2日後に日本へ帰ってきたから、今度も同じだけは待ってみようと思ったんだ。・・・俺が『当分譲らない』って言ったら、おまえが『東京へ戻ったら覚えてろ』って言ったから」
――あのとき、姫の気持ちも聞かずに、自分の気持ちだけで抱いたから。
唇を噛んで。
表情{かお}が良く見えないよう、そっぽを向いて。
組んだ腕に掛けた指の、爪が白くなるほど強く自分の腕を抱いて。
そんな依嶋の腕を無理に解いて、シーツに背を押し付ける。
「1ヶ月と2日って過ぎてたっけ」
「・・・明日。で1ヶ月と2日め」
自分でもずるいと思いながら、のうのうと「じゃあ、間に合ったってことだな」と返して、耳元に唇を近づけた。
でも、
蓮に抱かれるのも、
嫌いじゃないから。
囁きながら、指に指を重ねる。
でも今日は譲るつもりはないからな、と、依嶋の間に身を置いた。

@@@

依嶋の瞼にかかっている一筋の髪を人差し指でそおっと掬い上げてやる。
軽い寝息を立てて眠っている依嶋に、ついついまたちょっかいを出したくなるのを我慢しながら見ていた。
男としては端正な部類に入る顔立ちに、オレが、きれいとか、可愛いとか思うのは、特別な感情を持っているからというのが大いにあるんだろう。本人に言おうものなら、バカにされるかもしれないな、と笑みが浮かぶ。
「何、ニヤニヤしてるの」
依嶋が目を覚ました。
「そろそろカーテンくらい開けようか」
返事を聞かずにカーテンを開けるオレに、「今、何時」と欠伸をしながら訊いてくる。
「昼を回ったとこ。まだ寝る?」
「いや・・・起きる。すっごい自堕落な生活になりそう」
軽く目を擦りつつ、頭を振って、依嶋が笑いながら言った。
そう言いながら、体は起こそうともせず、凝とこちらを見てくる。
ベッドに腰を掛けて、訊いてみる。
「何かまだ言いたいこと、ありそうだな」
本当は髪に触れたくて、頬を撫ぜたくて手が出そうになったが、そうすると、また、ブレーキが効かなくなりそうで、とりあえず我慢する。
「どうして、帰国してもずっと、俺に抱かれるままだったんだ?」
雪が止んだ曇天の柔らかい午後になったばかりの昼明かりは、朝っぱらから抱き合って(依嶋の言葉を借りれば)自堕落な半日を過ごした部屋には柔らかい光を満たしてくれる。明るすぎず、透明すぎず、冷たすぎず温かすぎない。もちろん、リビングからのエアコンの暖気のおかげではあるのだが。
「さっき言ったことじゃ不満か?」
刷毛で刷いたように、という言葉のごとく、依嶋の頬がすっと赤くなる。それを見て、とうとう我慢できずに、依嶋の頬に軽く手の甲を触れ合わせた。
「あれは、ただの方便じゃなくて、本気でそう思ってるんだけど、ほかに理由、って言われれば、ないこともない」
依嶋の隣に、ごろんと寝そべる。
「ここのところ、おまえが機嫌悪かった理由はそれ?」
返事をしないが、むす、とした顔が何よりの返事だ。
「オレ、すっごい悩んだんだぞ。オレがよっぽど・・・その、下手クソで、やっててもつまらんのか、とかさ」
依嶋が顔を上げて、唇の端を少しだけ上げる。機嫌が悪いまま笑おうとするせいで、いつもの、泣きそうな意地っ張りの表情だ。
「あのさ」
結んでいたゴムが外れた依嶋の襟足の髪を触りながら、話しかける。
「一応、オレだって、牡なりの欲が出るときだってあったよ。中高生のガキじゃないにしても、だ。でも、自分でも不思議だけど、おまえと抱き合ってるうちに、そういうの、どっちでもよくなっちまうんだ」
今朝は、我慢できなくなって、オレの気持ちだけでおまえに譲らせたけどな。
そう言うと、依嶋はすぐに理解してくれたようで、顔を覆っていた曇りが途端に消えた。
「おあいこ、な」
依嶋の頬にキスをする。
あー、また、自制が効かなくなったらどうしよう、と思いながら、予防線を自分で張って見せる。
「風呂に入るか、メシ食うか。『自堕落』にならないためにはまずはどっちかにしよう。どっちがいい?」
「カフェイン。珈琲、入れ直してくれるって言った」

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