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Re-Birth

Re-Birth

その日、珍しく「親友」が私を呼び出したので、私はここしばらくなかったことと心の浮き立つのを隠しもせず出かけて行った。研究室{ラボ}の研究員たちが、私の浮かれ様に、入れ替わり立ち代わり三度も熱を計りにやってきたほどだった。
「親友」の居宅は、稀少世界建築遺産に指定されている。私はこの、世界にも稀な緑に縁取られた建築を見ると、なんとも言えず心がしっとりと満たされていく気持ちになる。自生のサバイバーボタニカル(なんと矛盾した生命体!)として、意思を持つ美しいこの緑の植物は、人工オゾン層膜を辛うじて透かして落ちる鈍い陽光にさえ、宝玉の翠に輝いて、私を迎え入れてくれた。
「イラッシャイ。ソール。オ久シブリ」
かつて東の国から移植されたと言うサバイバーボタニカルは、数百年を過ごす間にすっかり美しいシンパシニーズ(精神感応共通言語)を発する。「親友」が言うには、三代前くらいまでは非常にぎこちない、たどたどしい言葉でしか話しかけられなかった、と、ひいじいさんの日記に書かれていたという。
「やあ。会えて嬉しいよ。サバイバー。珍しくフィンのお呼びなんだ」
「エエ。知ッテイマス。彼モ‥‥」
サバイバーボタニカルはそこで一瞬言葉を切った。
「‥‥トテモ楽シミニシテイタソウデス。数日前カラ」
その時は、サバイバーボタニカルが空けたその一瞬の間の意味は、深く考えなかった。何故なら私は、本当に「親友」からの呼び出しに浮かれきっていたのだ。そんな一瞬の間などに気を回しているゆとりもないほどに。
「ドウゾ、オ入リ下サイ。ロードガオ待チカネデス」
まるで両の腕を開いてその懐へ誘うかのように優雅に、大きな玄関扉を閉ざしていたサバイバーの蔓が解かれた。同時に機械合成音の「やあ。いらっしゃい。待っていたよ」と、冷たいわけではないが、なんだか表面をつるりとコーディングしたような声がして、扉が開き、私が歩みを進めるべき道筋がLEECDの小さなライトグリーンの灯りの列によって示されていた。
「ソール。久しぶり。元気そうだね」
足元に道を作る柔らかな緑の小さな光の行く果てで緑の光がひとつ浮き上がり、こちらへついて来いと言うように、ふわりふわりと揺らぐ。私がそこへ着くと、今度は少しずつ先に立つように進み始めた。緑の光球のあとをついて行くと、やがてエレベータに乗せられ、地下の親友の居室へと誘導された。

———- * ———-

音もなくカーテンが開かれるように闇に溶けていた扉が両の側に開かれると、明るいが眩し過ぎない柔らかな光が私を出迎えた。
———- ソール、よく来てくれた。
頭の中に静かに届く声。それは発声器官を持たない「親友」の作り出す、心の振動だ。
緑の光球がひだまりの中に吸い込まれると、ひだまりから押し出されるように「親友」フィンの体の輪郭を淡い緑に浮かび上がらせた。
「フィン、元気にしていたかい」
緑という色は、どうしてこうもひだまりに似合うのだろう。心を静かに満たしてくれるのは何故だろう。常々思うのだが、しかしフィンに問うてみたことがない。愚問としか思えないからだ。心が満たされることに何の理由が必要だろうか。
「ここのところどうしているのか、気になっていたんだよ」
私が言うと、さらに私たちの周りのひだまりが広がったように感じた。
「これを修復するのに時間を費やしていたんだ」
フィンの後ろが明るくなったのが、ひだまりが広がったと思った原因だった。
———- これがなんだか分かるなら教えてほしい。ソール。
私は唖然とした。

———- * ———-

フィンの背後の明るいものはハロだった。
「天使・・・・・・莫迦な・・・・・・・」
———- テンシ、というものなのかい?
フィンの心が震えていた。いや、伝わってくる頭の中の声が震えているように聞こえるからそう思ったまでであったが。
「そうだ。フィン。これは、はるか昔、あるいくつかの宗教の聖典や伝承に記された、神の使い、だ」
———- では、進化論上の生物ではないということか?
「そう・・・・・・だ。そのはずだ」
フィンの後ろに廻り、大きな水槽に寄って、じっくりとその天使らしき物体を見つめた。
———- では、これで正しく修理できているかどうかは君にもわからないということか‥‥‥。
ため息まじりのフィンの声は、私の頭の中に重苦しく沈んでいったが、それとは逆に、私は非常に興奮していた。
何故なら、私は知っているからだ。フィンが心に感じたまま、指先にそのフィーリングとアナライズを伝え、「様々なもの」を修理することができる能力を持つと共に、フィンの修理によって「そのもの」の持つ本来の姿を取り戻すことに成功した場合、フィンは「そのもの」の性質や形状を自身の体に取り込んで変化(へんげ)することができる能力を持ちあわせているのだということを。
天使という存在が物語(フィクション)の中のものなのか、信仰の思想を保つために生み出された想像上の便利な存在であるのか、その真(まこと)はともかくとして ——― 。
そう考えていたとき、私の顔を優しく照らす光が点りはじめていることに気付いた。白い柔らかな光は、少しずつ光度を明るくしていっている。

「ああ、フィン。成功しているよ。美しい天使だ。君の修理はカンペキだったようだよ」
キチン質セラミックやレアメタル板のつぎはぎで修理されたメカニカル天使のこちら側には、美しい輝きの翼を背に得た私の「親友」が、相も変らぬ純粋無垢な静かな笑みをたたえて、私のほうを見えない目で見つめていた。

(END)

 

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